『GajA』ERIMAKI inc.連載「あのひとに会いにいく」の番外編。
つくることは、たのくるしい。
四国旅マガジン『GajA』の連載を依頼された2020年夏、タイトルを「あのひとに会いにいく」と決めて、ERIMAKIが一番会いたい人に会いに行った。訪ねたのは、愛媛県今治市にある四国八十八箇所霊場第五十七番札所の栄福寺。再会したかった白川密成(みっせい)さんは、このお寺のご住職さんで、『ボクは坊さん。』(ミシマ社)の著者でおなじみ、愛媛の文壇スター。
2018年、わたしたちが出版したリトルプレス『よむ処方箋01 失恋』で、お坊さんという立場から、死生観を織り交ぜつつ、失恋の痛みを和げてくれるすばらしいエッセイを寄稿してくれた。失恋の絶望さえあしたの活力にできる“特効薬”のような文章を受け取ったとき、「さすがだな」と思ったし、「かなわないな」とも思った。
密成さんが執筆をはじめたきっかけは、「ほぼ日刊イトイ新聞」(ほぼ日)。密成さんは24歳で、おじいちゃんから寺を継ぐ。若き住職は、一般の人からすればわかりにくい仏教の世界に、新しいアプローチをつくりたいと考える。そこで思いついたのが、愛読していた「ほぼ日」に文章を掲載してもらうことだった。ほぼ日を主宰する糸井重里さんに企画提案。連載の“試作品”をいくつか読んでもらったのち、掲載が決まったという。
多くの人が目に触れる文章は、編集者による校正がつきものだ。密成さんの場合、担当編集者だけではなく、ときには編集長の糸井さんみずから、原稿の感想やアイデアを伝えることも多かったのだとか。感想のメールがパソコンに届くのは、多くが、世の中が眠る午前2時、午前3時頃。そんなやりとりを繰り返し、連載は231回を数えた。説得力がありながらも、自然体で、耳に心にストンと入ってくる密成さんの文章力は、回数分繰り広げられた“修業”のたまものでもあるだろう。
その一方で、ほぼ日を毎日更新し何年も続けていく源にある、糸井重里というクリエイターのすごみ、「本気で楽しむ」ための努力の一端を垣間見た気がした。世の中に届くものは、考えて、悩んで、もがいて生まれたものと、そうではないものとが入り混じる。その違いに意識を向けようが向けまいが、気づこうが気づかまいが、前者のものは生き残るし、後者のものは消えていく。そんなもの、なのかもしれない。
ERIMAKI inc. 2021年3月31日結成。せっかくやるんだったら10年先、20年先に残るものをつくりたい。まちのソメイヨシノの花が爛々と舞い散るこの日、考えて悩んで、愉しみくるしむ、あらたな幕がこっそりとひらいた。(ERI)