diary
2021.07.28
日々のこと、制作のこと、苦とクククの間の、いろんなこと。
Writter:ERI
つくづく、臆病にできておる。
2021年2月、福岡の出版社・書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)から出版された『二重のまち/交代地のうた』。東日本大震災で被災したまちのことが書かれたこの本は、ありったけの涙と賛辞にまみれた、わたしの特別な一冊になった。
この文章のベースには、著者の瀬尾夏美さんが、被災地を歩き、出会った人たちから話を聞いた体験がある。それらを噛み砕いてつむいだ架空のものがたりと、瀬尾さんが取材対象者になりきって「復興」を語る“エッセイ”が盛り込んである。
特に、その人の言葉の外側にあるもの、言葉で言い表せないものを拾った先にある“なりきりのエッセイ”は、ひとつひとつが短い。ムダがなく、感情を抑えた筆致で描かれたリアルが、「復興」の裏側にあるもの、取り残されたものをあぶり出し、心にずしんと届く。
伝えたいことを、本人以上に伝わりやすく伝える。これが、ライターなどと呼ばれる書き手の本分。他者のことを、書き手の思考や感情を通して世のなかに伝えなければならない。だから、文章で晒されるのは、書かれる側のことだけではなく、書き手の感性や観察力、生き様も丸裸になる。つくづく、こわい仕事だと感じる。
わたしより10歳も若い、東京都生まれの瀬尾さんはきっと、持って生まれたものや、これまでの体験の厚みがわたしとは圧倒的に違うのだろう。すごいな、と思う。そうかといって今さら同じようになれるわけでもないし、ありのままでやっていくしかない。だからせめて、現場に立つ前は、「よく見ろ」「よく感じろ」とじぶんに発破をかける。
それは、おまじないのようなものでもあり、呪文のようなものでもあるのだ。(ERI)